Plastic brain structure changes associated with the division of labor and aging in termites

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Recommended citation: Ishibashi, T.*, Waliullah, A.S.M.*, Aramaki, S., Kamiya, M., Kahyo, T., Nakamura, K., Tasaki, E., Takata, M., Setou, M., Matsuura, K. (2023) "Plastic brain structure changes associated with the division of labor and aging in termites" Development, Growth & Differentiation, 65 (7):374-383. https://doi.org/10.1111/dgd.12873

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Cover Image of DGD (volume 65, issue 7)

簡単な解説

本研究は,シロアリの脳形態がカースト間・年齢間で表現型多型を示すことを報告するものです. 特に,単にカースト間で多型が観察されるだけでなく,脳サイズが生殖カーストか否かに相関することを発見した点,すなわち発生学的な違いよりも社会的な役割の違いの方が脳サイズの違いをうまく説明できるということを発見した点が重要だと思っています.
さらに,シロアリの王が加齢とともに脳形態を大きく変えることも報告しました. 面白いのは,視覚に関わる脳領域である視葉が年齢とともに萎縮し,それに伴い視覚依存的に物体を避けるというタスク処理能力も大幅に低下していることを発見した点です. この後胚発生プランは,シロアリ王が羽アリとして飛び立ったときには視覚依存的なタスクが存在する一方,木の中でワーカーたちに世話をされながら暮らすようになると視覚依存的なタスクが不要になるという生活環に見事にマッチしているように見えます.

これは,もったいない精神から始まったセレンディップな研究です. 大阪大学 細胞生物学研究室(松野健治 博士 主宰)を卒業した私は,それまで研究してきた細胞生物学や発生学から個体集団スケールの研究に目を向けようと思い,ファーストポスドク先として2019年4月より京都大学 昆虫生態学研究室 (松浦健二 博士 主宰)に加わりました. この研究でも用いているシロアリ王ですが,この野外採集技術は京都大学 昆虫生態学研究室がほぼ独自に培ったもので,シロアリの王や女王は他の研究室では容易には用いることのできない希少なサンプルです.

当時,昆虫生態学研究室ではシロアリの王が採集されると,写真撮影や大きさの計測といった記載がなされ,いくつかの身体の部位が解剖に回されていました. 研究テーマをどうしようか考えていた私は,そこでシロアリ王の頭部が解剖にも回されず,ただDNA抽出用の「捨て部位」として冷凍保存されていることに気づきました. どうせ捨てられる部位なので,その希少性にも関わらず,多数のサンプルを集めることができます. 野外採集されたシロアリはほとんど京都大学でしか手に入らないのですから,その脳形態を詳細に調べれば新発見があるに違いありません (実際,査読者からも野外採集したシロアリ王をこれだけ観たのはすごい,とコメントいただきました).
大阪大学で学んできたイメージングと,京都大学で学んだフィールドワーク・行動解析を組み合わせることで,私にしかできない仕事にできたと嬉しく思っています.