E and ID proteins regulate cell chirality and left–right asymmetric development in Drosophila

Published in Genes to Cells, 2019

Recommended citation: T. Ishibashi, R. Hatori, R. Maeda, M. Nakamura, T. Taguchi, Y. Matsuyama, K. Matusno. "E and ID proteins regulate cell chirality and left-right asymmetric development in Drosphila." Genes to Cells 2019 24:3. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/gtc.12669

Authors:
Tomoki Ishibashi, Ryo Hatori, Reo Maeda, Mitsutoshi Nakamura, Tomohiro Taguchi, Yoko Matsuyama, Kenji Matusno.

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簡単な解説

私が筆頭著者となった初めての論文で,とても印象深いものです. これは,私の博士過程での研究の一部を発表したもので,私の博士学位論文もこのテーマで執筆しました.

ほとんどの多細胞動物は,頭尾軸,背腹軸,左右軸の3つの体軸を持ちます. 生物の発生過程で体軸がもたらす位置情報は,細胞や器官の適切な配置,ひいてはからだの形態が形成されるのに必須の役割を果たします. そのため,形態形成の分子メカニズムを理解するためには,体軸およびその向き(極性)の決定に関わる分子機構を明らかにする必要があります. これまでの研究から,頭尾軸と背腹軸の決定に関する知見は豊富に蓄積されており,これに関わる遺伝子群や,それらの遺伝子がコードするタンパク質の分子細胞生物学的な作用機序の理解が進んでいました. 左右軸についても近年理解が進んでおり,脊椎動物における左右軸形成機構が明らかにされていました. しかし,無脊椎動物においては,左右極性を一意に定める遺伝的な機構はほとんどわかっていませんでした.

私が所属していた大阪大学 松野研では,ショウジョウバエの左右非対称性に着目し,無脊椎動物の左右極性形成機構を解明するために研究を行ってきました. ショウジョウバエでは,ヒトと同様に,消化管が遺伝的に決まった左右非対称性を示します. 消化管の左右非対称性は胚時期から観察され,左右極性が逆転する頻度は,野生型においてはほとんどゼロです. 何らかの遺伝子機能が欠失した突然変異体において,胚消化管の左右極性が逆転やランダム化していた場合,機能欠失した遺伝子が左右極性形成に必須であることがわかります. ショウジョウバエは,遺伝学的研究のための優れたモデル生物であり,ゲノムの全遺伝子を網羅する突然変異の誘発が可能です. これらの突然変異体の中から,胚消化管の左右極性に異常を示すものを探すことで,左右極性形成に関わる遺伝子を網羅的に同定できます. ショウジョウバエ胚消化管は,はじめは左右対称な形態をしていますが,胚発生の進行に伴い,尾側からみて反時計回りに消化管が捻転することで,遺伝的に決まった左右非対称な形態をとります. 松野研ではこれまで,このような胚消化管の左右極性の異常を指標として,左右極性形成に関わる遺伝子を網羅的に探索してきました.

この結果,私は,extra macrochaetae ( emc ) 遺伝子の突然変異体において,胚消化管の左右極性がランダム化することを発見しました. emc遺伝子は,ヒトではIdと呼ばれるタンパク質をコードしており,Eと呼ばれる転写因子の活性を抑制すること(E-Id制御系)が知られていました. そのため,emc突然変異体では,Eタンパク質の抑制が喪失することで,胚消化管の左右極性形成に異常が生じたと考えられました. 我々はこの仮説を検証し,E-Id制御系が,ショウジョウバエの胚消化管において左右極性形成機構に必須の役割を果たしていることを明らかにしました. E-Id制御系は,ヒトでは細胞の分化増殖制御に関わることが知られています. これに対して本研究では,E-Id制御系が,細胞の分化増殖制御とは無関係に,消化管の左右非対称な形態形成で働くことがわかりました.

論文の後半では,E-Id制御系による,分化増殖制御非依存的な器官の左右非対称性形成機構を理解するため,消化管細胞の形態に着目しています. 前述の通り,ショウジョウバエ胚消化管は,はじめ左右対称な管が捻転することで,左右非対称な形態になります. これまでに我々は,捻転前の左右対称な消化管では,消化管を構成する上皮細胞が左右非対称な形態をとり,その一方,捻転後の左右非対称な消化管では,上皮細胞が左右対称な形態をとることを発見していました. 我々は,この細胞レベルの左右非対称な性質を”細胞キラリティ”と名付け,細胞キラリティが器官レベルの左右非対称な形態変化を引き起こす原動力であることを示していました12. 私は,E-Id制御系は,この細胞キラリティを制御することで,分化増殖制御とは非依存的に,消化管の左右非対称性形成で働いているのではないかと考え,emc突然変異体における消化管の細胞キラリティを計測しました. その結果,emc 突然変異体では,細胞キラリティ形成に異常が生じていることを発見し,E-Id制御系が細胞キラリティ形成に必須の機能を持つことを明らかにしました.

E-Id制御系の異常は,ヒトではアルツハイマー病やガンなどの,重篤な疾患の原因になることがわかっています. これまで,E-Id制御系の異常による病態は,細胞の分化増殖制御の異常によると考えられてきました. 本研究が明らかにしたE-Id制御系による細胞形態の制御機構は,E-Id制御系の異常による病態を解明するために新たな視点を与えることができると考えられます.